2019年4月24日水曜日

矢の硬さを考える-その2

前に矢の硬さを考えるで、矢の固有振動数はその重量を重くすると小さくなり、軽くすると大きくなると書きました。(固有振動数 ∝ √1/重量 の関係)

言い換えれば、矢を重くすると矢は柔らかい側に変化し、軽くすると硬い側に変化することになります。

この法則で、矢が硬い傾向にあるときポイントの重量を増やし、矢の特性を柔かい側に変えることができます。

一方、矢が硬いときの対策として、羽を重いゴム羽から軽いスピンベーンに変更する対策があります。これはノック側を軽くして矢の特性を柔かい側に変える方法で、前の説明と矛盾します。

矢のノック側でも重量を増した場合、矢の振動数が増加し柔らかい性質を持つはずですが、なぜ硬い性質を示すのでしょうか。

ノック側の重量を増した場合、矢の振動数は先の通り小さくなり、矢の性質(固有振動数)は柔らかい方向に向かいますが、重量増加でノック側の慣性力が大きくなり、振動の振幅は小さく(注)硬い特性を持ちます

この振幅減少の方が、振動数減少より矢の硬さへの影響が大きく、ノック側の重量を増した場合、矢は硬い側に移行します。

注)硬いものは、柔らかいものより振幅が小さい

ある論文(The Mechanics of Arrow Flight upon Release)に次の記述があります。
-----------------以下引用------------------------

A larger mass at the tip of the arrow will causes the tip to resist the initial change in motion from the force applied by the shaft, causing the shaft to deform more, with the same effect as decreasing the stiffness of the shaft. A smaller tip mass would have the opposite effect.

ポイント側(tip)の質量を増加させると、シャフトに働くポイントの慣性力がシャフトの初期変形を起こさせ、シャフトの変形を大きくするため、シャフトを柔かくしたのと同じ効果があります。小さくした場合は逆の影響があります。(注)

Conversely, a larger mass at the tail of the arrow creates a tendency for the tail to resist the initial change in motion from the force applied to the bowstring, causing the shaft to deform less, with the same effect as increasing the stiffness of the shaft. Reducing the tail mass would have the opposite effect.

一方、ノック側(tail)の質量を増加させると、弦から受ける力に抵抗するノック側の慣性力でシャフトの変形が小さく抑えられるため、シャフトを硬くしたのと同じ効果があります。減らすと逆の影響があります。

Increasing the mass at the tail of the shaft would have no effect on the static spine, would cause the arrow to appear stiffer when launched, but would decrease the frequency of vibration.

ノック側(tail)の質量の増加は、静的スパインに影響しませんが、矢が発射されるとき硬い性質を現しますが、振動数は減少させます

------------引用終わり----------------

注)ポイントの慣性力(質量がある物体が外力に抗してそこに留まろうとする力)と弦がノック(シャフト)を押す力(横方向と軸方向の力)がシャフトに作用し、シャフトは曲げ振動をはじめます、また、質量(重さ)が大きいほど慣性力は大きくなります。

この現象を数値解析した論文(アーチェリーパラドックスにおける弓具や射形の動力学モデルと調整)に次のデータが記載されています。(原文の表は英文)
--------------以下引用--------------------

表2. 矢の振動周期[ms](1)の変化率
矢のパラメータ 
変化率
変化率(US単位)
シャフトのサイズ [1size](3)   
-0.72[ms/1size]
-0.72[ms/1size]
シャフトの長さ  [cm](5)
0.22[ms/cm]
0.559[ms/inch]
ノックに重さ [0.1g](4)
0.05[ms/0.1g]
0.032[ms/gr]
ポイントの重さ [g](5)
0.19[ms/g]
0.012[ms/gr]



表3.ノックの振幅(mm)(2)の変化率
矢のパラメータ 
変化率
変化率(US単位)
シャフトのサイズ [1size](3)   
-3.21[mm/1size]
-3.21[mm/1size]
シャフトの長さ  [cm](5)
0.52[mm/cm]
1.32[mm/inch]
ノックに重さ [0.1g](4)
-0.51[mm/0.1g]
-0.306[mm/gr]
ポイントの重さ [g](5)
0.51[mm/g]
0.306[mm/gr]


------------引用終わり----------------

注)
(1) 振動周期[ms]:1往復シャフトが振動するのに要する時間(1/1000秒単位)周期は振動数の逆数。

(2)ノックの振幅:ノックの先端が振動で振れる幅(mm)。

(3)シャフトを1サイズ(1714 X7 スパイン0.963 を 1814 X7 スパイン0.799)変えたとき、矢は硬くなり振動周期は0.72ms 短く、ノックの振幅は、3.2mm狭くなる。
スパインを小くするとシャフトは、曲がりにくくなるため、振動周期は短く、振幅は小さくなる。

(4)ノック側を重くした場合、振動周期は長く(振動数は小さく)なるが、振幅の減少率が大きく、矢は硬い性質を持つ

ノック側を0.1g増加させたときの変化率とシャフトを1サイズ変えたときの変化率と比べると(ノック側を0.1g増加の変化率/シャフトを1サイズの変化率)

  - 矢の振動周期: 0.05/(-0.72)=-0.07

  - ノックの振幅: -0.51/(-3.21)=0.16

となり、ノック側の重量増加は矢を柔かくする効果より、硬くする効果の方が大きいことがわかる。

(5)シャフトを長くしたときと、ポイントを重くしたときはともに、矢の振動周期は長く(振動数は小さく)なり、かつ、振幅は大きくなるので、矢は柔らかい性質を持つ。

--蛇足---


矢の挙動に影響を与える矢の要素

矢の要素                         変化      振動数        振幅            矢の硬さ

シャフト長                     長くなると   小さくなる  広くなる   柔らかくなる

シャフト外径                 大きくなると  大きくなる  狭くなる 硬くなる

シャフト弾性率             大きくなると  大きくなる     狭くなる    硬くなる

シャフト密度                 重くなると     小さくなる      広くなる    柔らかくなる

ポイント側重さ             重くなると   小さくなる     広くなる    柔らかくなる

ノック側重さ                重くなると   小さくなる      狭くなる     硬くなる(注)

注)発射時