パラドックス (矢のスパイン)

このページは、Net上の色々な説から、いいとこどりの抜粋で転載しています。
ここ例は、すべて右利きの場合です。

パラドックスという言葉は、的の中心を射抜くために、矢が的の中心ではなくわずかに左側に向けられなくてはならないという事実によりつけられました。

矢は発射される瞬間にたわみ、そして真直ぐに戻る際に正しい進路に戻るために、適切な柔らかさの「スパイン(注)spine脊椎))でなくてはなりません。

注)矢の軸(シャフト)のわみやすさのこと
シャフトを2点で支え、中央に重りを提げてたわんだ距離で比較する。この距離を数字で表すと、大きいほうがたわみやすい、すなわち柔らかいということになります。

弱い力の弓は、矢をたわませる力が弱いため、矢が弓を容易に回り込むことがきるように、柔らかいスパインの矢を必要とします。

強い力の弓は、矢をたわませる力が強いため、に対して矢の回り込みが大きくならないように、硬いスパインの矢を必要とします。
           

                 弓に対し
              硬すぎる矢   合った矢   柔らかすぎる矢
図 矢の方向
弓に対して硬すぎるスパインの矢はあまりたわまず、弦が弓に近付くにつれて矢は弓と反対の方向にそれることになります。

柔らかすぎるスパインの場合、矢がより大きくたわみ、弓と同じ側に的を通り越した方向に射出させられることになります。

また、パラドックスとは、「放たれた矢が左右にクネクネ曲がりながら飛ぶ」こともさします。

全体として「まっすぐ」飛んでいるはずの矢が、実はクネクネと「曲がりながら」進んでいる、という現象から「パラドックス」と呼ばれます。

なぜ、矢は「クネクネ曲がる」のか、原因は「リリース」にあります。アーチェリーは、右手の人差し指、中指、薬指の三本の指を弦に引っ掛けて引きます。

図 リリース
矢を放つ時、指は一瞬で伸びきるわけではありません、弦は指に沿って左の方向に離されます。
また、弦の上下は弓の端に固定されていますから、弦は、やがて弓に引き戻される形で中央に戻り、その反動で右に行き過ぎ、また元に戻る、という動きをし、結局、逆S字のカーブを描くことになります。

このように逆S字に動く弦に矢がつがえられた矢の様子を図に示します。




























図 弦と矢の動き(上から見た図)

(a) 指をすべり弦は左に向かい、ノックも左前方に向います(黒矢印の方向)

(b) その結果、矢は右に凸の形に湾曲してます

(c) 弦は逆S字を描いて動き(黒の破線)、矢も曲りが元に戻ろうとします

(d) 反動で逆の左に矢は湾曲します

(e) 元に戻る、湾曲の動きを繰り返し、矢は右左に振動を始めます

(f) 最後に矢が弦から離れて行く時には、矢は右に凸に湾曲しています
そのおかげで、弓とハネが触れることなくクリアーできるという利点が生まれます。
まっすぐ飛ぶためには不要なはずのクネクネ現象が、実は役に立っている、という点もパラドックスと呼ばれる理由の一つです。

図のように、弦の左右のクネリ(振動)と矢のクネリ(振動)がピッタリ一致していれば、矢は湾曲しながらも、その振動の2つの節(黒○)はまっすぐな軌跡を描き飛んで行きます。

弦の振動は弓の強度などで決まり、矢の振動は、矢のバネとしての硬さで決まりますから、この両者は必ずしも一致するとは限らず、矢の振動の節の軌跡が真っ直ぐならない場合の方が多いといえます。

矢のノックが、弦から離れたのち、矢はターゲットまで2つの節を持った自由振動をしながら飛んでいき、時間とともに振動は減衰し振動の幅は小さくなります。


例えば、

硬い矢: 
矢が太すぎたり、肉厚すぎたりすると、バネとして硬く(曲げるのに力が必要に)なります。硬いバネは速く振動する性質がありますから、この矢は速くクネることになります。

柔らかい矢:
逆に細く肉の薄い矢の場合は、軟らかいために振動が遅くなり、やはり弦のクネるタイミングとは一致しません。

硬い矢・柔らかい矢の場合、矢の飛び出しに際して、大きな問題が発生します。その様子を模式的に示したのが次の図です。

図 矢の硬さが弓と合わないと・・・
弦は前図と同様に左に、次いで右に振動します。

理想的な矢(図の左):
弦と同じ速さで振動する理想的な矢であれば、図の左端のように、狙った方向にまっすぐに飛んで行きます。

赤色は、初めの静止状態の矢
橙色は、右に凸に最大に湾曲した状態
緑色は、左に凸に最大に湾曲した状態
青色は、再び右に凸な湾曲状態を示し

矢は、赤→橙→緑→青の順に飛んで行きます。

硬い矢(図の中央):
硬い矢は振動が速いですから、弦が左いっぱいに振れる前に最大湾曲に到達してしまいます(橙色)。
そのため、弦が左にいっぱいに振れた時点では、既に最大の曲がりを通りこして元に戻り始めていますので、矢はお尻を左に引っ張られた状態になり、矢の振動の2つの節が中心線よりも左にずれることになります(橙色破線)。
このようにして初めに左向きに飛ばされた矢は、もう元の中心線には戻れません。そのまま左に流れてしまうのです。さらに、矢が硬いことから、弓との接触部分でも強く弾かれ、やはり左に飛ばされる形になります。

柔らかい矢(図の右):
矢が最大の湾曲に到達した時点で、弦は既に最大振れを通り越して元に戻りかけていますから、矢のお尻は理想的な位置よりも右に振られ、重心には右に向かう速度が与えられます(橙色)。

その後は最初の勢いのままに、右方向へ向かうことになるのです。また、弓との接点での反発力が弱いことも、矢が右に向かう原因の一つになります。

実際には弦の離し方、弓の押し方などで状況は大きく変化しますが、スパインの違いによる、矢振動の違いを誇張したイメージ図です。

このように矢の飛ぶ方向が中心線からずれると、
・空気抵抗が大きくなります
・ハネが風を受けお尻を激しく振りながら飛びエネルギーロスします
的中精度も下がってしまいます

実際の矢飛びの様子です。


アーチェリーパラドックスという現象は必ず起こりますから、矢をまっすぐに飛ばすためには、矢の硬さを弓に合わせなければなりません。

そのために、弓の強さに合った、矢の太さ、長さ、肉厚などを選ぶ必要があります。

選定した矢を弓に合わせるには、チューニング ベアシャフト(注)等により調整をします。


弓の強さに対し矢が硬い場合の調整
プランジャーのバネを柔らかくする(注)
・プランジャーの出し具合を少し小さくする
・矢のポイントを重くする
・矢のスパインを柔らかくする(矢を交換する
・弓のポンドを重くする

弓の強さに対し矢が柔らかい場合の調整

・プランジャーのバネを固くする(注)
・プランジャーの出し具合を少し大きくする
・矢のポイントを軽くする
・矢のスパインを固くする
(矢を交換する)
・弓のポンドを軽くする

注)プランジャー
アーチャーのパラドックスを補償するため、プランジャーが発明されました。
(プランジャーボタン、クッションプランジャー、プレッシャーボタン、あるいはその発明者、ヴィック・バーガー (Vic Berger) にちなみ、バーガーボタンとも言われます)

プランジャーは、弓と矢が接触する部分の硬さを調節し、スパインの多少のズレをカバーしていますが、このような調整にも限界があります。


注)チューニング ベアシャフト
      矢を実射して、その矢及び弓が適切な状態にあるかを判断するチューニングです。
      羽あり(フレッチングシャフト)と羽なし(ベアシャフト)の的中位置の違いを見てチューニングをします。
      羽あり羽なしを3本づつで行うのが主流になっています
      このチューニングをするのに対して、弓のセンターショット、矢の位置、プランジャーと矢の位置、レストの高さなどが調整済みであることが条件です。

      ある程度グルーピングさせるレベルの選手でなければ、適正な結果が出ることは期待できません。


2 件のコメント:

  1. 始めてお邪魔しました。とても詳しく読みやすいブログですね。これから、色々と勉強させていただきたいと思います。

    矢の飛び方に影響を与えるもう一つの要因として、ストリングのストランド数も関係している気がします。

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  2. そうですね!!
    弦のストランド数(弦の太さ、重さ)が変わると、弦の戻りスピードが変わるので、影響しますね。

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