2016年8月29日月曜日

短距離で基本チューニングを学ぶ

学ぶシリーズ 019

ティラーハイトでセッティングを学ぶで、実射する前の弓のセッティングについて書きました。

セッティングは実射前に弓を調整することですが、その推奨設定値には範囲があり、採用した設定値が矢・弓・フォームに合っていいるかは、実射してみないとなんともいえません。

フォームが固まりある程度グルーピングできるようになるまでは、セッティングの設定値を実射して調整(チューニング)することも難しいと思います。

例えば、ベアーシャフトチューニングは、36射で330点程度の点数がでる技量がないと意味あるものにならないようです。(だいたい黄色に入る技量で赤が数本と言ったところ、チューニング中赤は無視する)

また、ベアーシャフトチューニングは矢の振動が安定する距離(15~18m程度)以上の距離で行う必要があり、初心者にはハードルが高いものになります。

今回は、短距離 5-10mでできる基本チューニングを紹介します。
基本チューニングの項目は、

  • ブレースハイトの設定の確認
  • 矢と弓の干渉の有無の確認
  • ノッキングポイントの調整
  • センターショットの調整
実射まえに次のセッティングを確認してください。

- ブレースハイト---メーカ推奨値幅の上の方の値
ブレースハイトは高い方が、
  • 矢の飛びが安定
  • 矢と弓が接触する可能性が低く
  • 押手に当たる可能性も低く
  • 発射音が静か
になる。

- ティラーハイト 0または数mm(ティラーハイトでセッティングを学ぶ(その2)参照)
- ノッキングポイントを動かすことができる
- センターショット(Arrow Centering)の矢の振り出し量

確認ができたら、

実射(5m程度の距離で、矢を水平に撃ちます)

  • 的に目の高さとアンカー(あご)の高さの印をつけます。
  • 目の高さの印を狙ったとき、矢が水平になっていることを、他の人に確認して貰います
  • サイトの高さを矢が水平になるまで調整します
  • アンカー(あご)の高さの印の付近に矢が刺さることを確認します
アンカーの高さの印付近に矢が刺さるまでサイトを調整します。
継ぎ矢をしないように、狙いを左右にずらしながら、数射します。


数射した結果を確認します。
  • ブレースハイト----発射時に異音がするようであればブレースハイトを高くして、音が静かになるところを探す。(異音がなければ設定は変えない)
  • 矢と弓の干渉の有無----矢、弓に干渉のすり傷がないか確認する。特に羽が破れていないか確認する。(干渉がある場合は、対策が必要ですが、今回は省略
異音も矢と弓の干渉もなければ、再度実射してノッキングポイントとセンターショットを調整します。

- ノッキングポイント
まず、ノッキングポイントを合わせます。

A: 矢が下向き--ノッキングポイントが高すぎる、低くして再度実射

B: 矢が水平 --たぶん適正なノッキングポイント高さ

C: 矢が上向き--ノッキングポイントが低すぎる、高くして再度実射


B.になるまで調整します。
矢が上下に傾いて斜めに刺さるのは、ティラーハイトでセッティングを学ぶ(その2)に書いたように上リムが矢を跳ね上げる量とノッキングポイントの高さがあっていないためです。

ノッキングポイントを合わた後、センターショットの調整をします。(調整は1度に一つにします。)

- センターショット(右うちの場合)
A: 矢が左から右に刺さる ---プランジャーが引っ込みすぎ、プランジャーを出し矢先を左に出す
B: 矢が真っ直ぐ刺さる  ---たぶん適正な矢の振り出し量
C: 矢が右から左に刺さる ---プランジャーが出すぎ、プランジャーを引っ込め矢先を戻す

矢が左右に傾いて刺さるのは、矢の振動の節が的に向かって真っすぐになっていないためで、この振動の節を的に向かって垂直に修正するためプランジャーの振り出し量を調整します。(パラドックスを参照)

5mの距離で、矢を水平に撃ちだし上下左右がBになったなら、8m、10mでも同様のことを行います。

すべての距離で、両方ともBの状態になったとき、基本チューニングを終わります。
矢の動的スパインが合っていないと、3つの距離全てをBにすることが出来ないこともあります。

チューニング中に明らかな撃ちミスがあった場合、その結果は無視します。(正しいフォームでなければ、チューニングはできません。)

18mの距離で、ある程度グルーピングできる技量になったら、Simple Button Adjustmentを行いプランジャーのばね圧を調整します。(参考資料を以下に示します)





2016年8月26日金曜日

美しく立つでスタンスを学ぶ

学ぶシリーズ 018

赤ちゃんは、生まれて1年~1年半で自分で立ち上がり、歩くことができるようになるようです。

歩けるようになるまでに、足腰の筋力とバランス感覚を身に着け、それ以降は、意識することもなく立ち上がり、歩くことができるようになります。

人が立つとはどのような現象でしょうか?

人が立って倒れないためには、体の重心(お臍の下ぐらいのところ)の鉛直線が、両足の間になければなりません。

片足で立つ場合は、片足の接地してる部分の中に重心がくるように体を曲げる必要があります。

体に外力が働き、重心が両足の間から外にでると、立っていることができずに倒れてしまいます。

人が立つと言う動作は、体の重心を常に両足の間に保つ動作にほかなりません。

美しく立つには、筋肉、骨、関節といった体のあらゆる部分をきちんと連動させ正しく使う必要があり、理想の重心の位置は、足の人差し指のつけ根とかかとを結んだ足の裏の中心線上で、内くるぶし前方の土踏まずのあたり(図の◎)だそうです。(健康の基本は「美しく立つ」ことから

アーチェリーのスタンでも、この理想の重心の位置に体軸をもって来ることにより、軸のぶれない美しいフォームをつ作るこことができると思います。

体軸を考えるで書いたように、アーチェリーは的の方向に重い弓を押し出し持ち上げているため、体の重心(弓の重さを含む重心)位置が足の中央部に来るとはありませんが、自分の理想の重心の位置を知っておくことは重要だと思います。

体の重心の位置を知る方法を応用してスタンスを決め方を考えてみます。

スタンスを決める

  1. いつものスタンスでリラックスして立つ
  2. 体を前後に大きく揺らし徐々に小さくしながら足裏に均等に荷重がかかる位置を探す
  3. 左右に大きく体を揺らし、左右均等に荷重のかかる真ん中の位置を探す
2.3の時、体が特に不安定になると感じる方向を見つけます。(試すときは、体を真っ直ぐにした状態で行ってください。)

この不安定になる方向を無くすためにスタンスの幅を変えたり、足の開く角度を変え自分に合ったスタンスを探します。

A. 普通に立った時のスタンス
足のゆび側をやや開き、足幅は肩幅ぐらい。
この状態で、2.3を試し、不安定な方向がなければ、これを採用します

B. 足の間隔を極端に狭くしたスタンス
この状態で、2.3を試すと、すべての方向が不安定なはずです。

C. 指側の間隔を広くしたスタンス
この状態で、2.3を試すと、前方向が不安定なはずです。


D. 踵側の間隔を広くしたスタンス
この状態で、2.3を試すと、後方向が不安定なはずです。


E. 足の間隔を極端に広くしたスタンス
この状態で、2.3を試すと、左右方向は安定しますが、前後方向が不安定になるはずです。
左右方向(的の方向)が不安定な人は、スタンスの幅を広げると安定するかもしれません。

F. 試すスタンス
足幅は肩幅ぐらいで、足の人差し指のつけ根とかかとを結んだ足の裏の中心線を平行にする。
B.C.D.Eは極端な例ですが、この例を参考に足幅、足の開を調整し2.3を繰り返し、一番安定する足幅と角度を探し、安定するスタンスとします。

私の場合、最適なスタンスは、
  • 足の裏の中心線は平行
  • 足幅は肩幅よりやや狭い(注)
です。

注)足の幅は、土踏まずを通る足の裏の中心線の間隔、肩幅は、上腕の外側

スタンスを考えるに3種のスタンスを例示しましたが、安定するスタンスの形状を用いることで、どのスタンスも安定すると思います。
  • ストレートスタンスは、安定するスタンスで両肩のラインが的に刺さるように立ちます
  • オープンスタンスは、安定するスタンスで両肩のラインが的に斜めになるように立ちます
  • オブリークスタンスは、ストレートスタンスの的側の足を踵を中心にやや的側に向けます

2016年8月11日木曜日

ティラーハイトでセティングを学ぶ(その2)

学ぶシリーズ 017

ティラーハイトでセティングを学ぶ(その1) の続編です。(修正:2017/2/27)

まず、ティラーハイトとは何かを再確認します。
(ティラーとティラーハイトは意味が違います、ティラーについては、【更新】ティラーって何でしょうかに詳しく説明されています。)


ブレースハイトは、グリップのピボットポイント(一番へこんでいるところ)から弦までの最短距離(弦に直角な長さ)ですが、ティラーハイトは、

上リムがハンドルに入っているところから、弦までの最短距離(弦に直角な長さ) a と、 

下リムがハンドルに入っているところから、弦までの最短距離(弦に直角な長さ) b の差

a-b で表されるのことで、a,b個々の値(ブレースハイトと共に変わる)にはあまり意味がありません。


このa-bの差は何を意味しているのでしょか、

答えは、上リムと下リムの強さの差距離の差として代替え的に表しています。

弓の強さを測るポンド計は、上下のリムの合計の力を測ることはできますが、個別のリムの力を測ることはできません。

弓を引いた時の上下のリムに発生する力を簡単に測ることができれば、その数値の方が弓の挙動を表すには適していますが、それが難しいので簡単に測れる距離の差強さの差として用いています。

a-bの計算結果から分かることは、
a-bがプラスの時(positive tiller): 下リムより上リムの方がしなり撓り)方が大きい
a-bが0の時(zero tiller):      下リムと上リムのしなり方が同じ
a-bがプラスの時(negative tiller): 下リムより上リムのしなり方が小さい

上リムと下リムは弦でつながれ、弓を引いていない状態では、リムにかかる力は同じで、しなり方が小さい方が強いリムを、しなりが大きい方が弱いリムを意味しています。

よって、
a-bがプラスの時(positive tiller):下リムが強く、上リムが弱い
a-bが0の時(zero tiller):     上下のリムは同じ強さ
a-bがプラスの時(negative tiller):下リムが弱く、上リムが強い 

これだけ見ると、a-b=0のzero tiller(上下のリムは同じ強さ)がよさそうですが、話は簡単ではありません。

弓を引くときノッキングポイントの上下に指を置いて引きますが、このノッキングポイトが、弦の中心より少し上にあるため、アンカーに入った時、リムのしなり方が違ってきます。

左の図(右ききのアーチャーですが、説明の都合で図は左右が反転した物を使っています)で、

弦の中心を引いた時を青い線で、
ノッキングポイトを引いた時を赤い線

表しています。

青い弦の位置と赤い弦の位置はわずかにずれていいます。

ずれは角度にして1°ぐらで図を見ても違いはわかりません。
左図は、上の図の弦だてけを取り出したものです(ノッキンクポイントは、見やすくするため極端に上にしてあります)

私の弓(70”)と引き尺(29 1/2”)で上リム先端(C)と下リムの先端(A)が垂直な壁(緑の点線)に固定されたいる場合の弦の角度と力のバランスを計算してみます。

まず、弦の中心を引いた場合(青い点線
Bを15.3kg(34ポンド)で引くと
A-B-LineDの角度とC-B-LineDの角度は同じ 22.1°
AB方向にリムを引く力とCB方向にリムを引く力は、ともに20.36kg
また、Bのライン(矢の方向へ)の力は、上下とも7.65kgで

2つのリム先端にかかる力の方向と強さ、及び矢に作用する力は完全に一致します。




ノッキングポイントを引いた場合(赤い線
B’を15.3kg(34ポンド)で引くと
A-B’-LineDの角度 20.9°
C-B’-LineDの角度 23.4°

AB’方向にリムを引く力 20.12kg
CB’方向にリムを引く力 20.48kg

また、B’のライン(矢の方向へ)の力は、上が8.06kg、下が7.24kgとなり上が強くなり、上リムの方が強く引かれます。


上の計算条件は、リムを壁(力によって位置が変わらない)として計算していますが、
ティラーハイトの設定を zero tillerで考えると、下リムより上リムが少し(8.06-7.27=0.79kg分)大きくしなり、Cの位置がAの位置より体側の近づき、弓が前後に少し傾いた状態でつり合うことになります。

また、上下のリムの矢に作用する力を同じにする(弓が傾かない)条件で、リムにかかる力を計算すると、



ノッキングポイントを引いた場合(赤い線
B’を15.3kg(34ポンド)で引くと
A-B’-LineDの角度 20.9°
C-B’-LineDの角度 23.4°

AB’方向にリムを引く力 21.46kg(下リム)
CB’方向にリムを引く力 19.27kg(上リム)

また、B’のライン(矢の方向へ)の力は、上下とも7.65kgで弓を前後方向に傾ける力は発生しません。

この計算結果からは、上リムを下リムより弱い力で大きくしなるように設定すれば、前後の傾きを防ぐことができます。 

これが、「a-bがプラスの時(positive tiller):下リムが強く、上リムが弱い」に設定する理由の一つとなります。

実際のつり合いは、スタビライザーの重りの効果、弦を引く3本の指の負荷配分・位置、押手のグリップを押す位置等が影響し、簡単に計算通りとはなりません。

positive tillerは、アンカーに入った時の弓のバランス(つり合い)に着目し、下リムのハンドルへの取り付け角度を上リムより垂直に近い状態に設定します。

アンカーに入った時は静的バランスが取れても、矢が発射されるときのバランスが良いとはいえないので、zero tillerを最近は採用するようになったようです。

ティラーハイトのチューニングには、
  • a-bを0 (zero tiller)で、ティラーハイトの実射による調整はしない方法
  • アンカー位置からさらに引いた時にサイトが上下に動かないようにa-bを調整する方法(Static tiller adjustment)
  • 矢が発射された瞬間に弓が前後に傾かないように調整する方法(Dynamic tiller adjustment)
  • 矢の発射が自分のフィーリングに合うようにa-bを調整する方法(Adjusting for ‘feel’)
などがあります。 
私は、a-bがプラス(positive tiller)=3mm とメーカー推奨の0-6mmの中央値を採用しています、強いて言えば、Adjusting for ‘feel’です。

次に「Nocking Pointがレストより上にあり矢が下を向くこと」の理由を考えてみます。

a-bがプラス(positive tiller)でも、普通の設定では上リムの方が、下リムより強い力で矢を押し出すため、発射の瞬間に矢先を跳ね上げます。(下の弦の方が長く、下の弦が早い速度が戻るため、跳ね上げ)

この効果でレストから矢は浮き上がり、矢がレストをこすっていくことがなくなります。

ノッキングポイントをレストより少し高くし、この跳ね上げによって矢が水平に出ていくように調整しています。

ノッキングポイントの適正高さはテイラーハイトと次にような関係があります。
  • a-bを大きくすると(下リムの強さを増すと)  適正ノッキングポイントの高さは高くなる (下の弦の戻る速度が速くなる)
  • a-bを小さくすると(上リムの強さを増すと)  適正ノッキングポイントの高さは低くなる(下の弦の戻る速度が遅くなる)
これは、矢先の跳ね上げ力は上下リムの力関係(弦の戻る速さの差)によるためです。

なお、ティラーハイトを先に合わせてから、ノッキングポイントのチューニングをします。
ノッキングポイントのチューニングの代わりにティラーハイトを変更してはいけません。