ティラーハイトでセティングを学ぶ(その1) の続編です。(修正:2017/2/27)
まず、ティラーハイトとは何かを再確認します。
(ティラーとティラーハイトは意味が違います、ティラーについては、【更新】ティラーって何でしょうかに詳しく説明されています。)
ブレースハイトは、グリップのピボットポイント(一番へこんでいるところ)から弦までの最短距離(弦に直角な長さ)ですが、ティラーハイトは、
上リムがハンドルに入っているところから、弦までの最短距離(弦に直角な長さ) a と、
下リムがハンドルに入っているところから、弦までの最短距離(弦に直角な長さ) b の差
a-b で表される差のことで、a,b個々の値(ブレースハイトと共に変わる)にはあまり意味がありません。
このa-bの差は何を意味しているのでしょか、
答えは、上リムと下リムの強さの差を距離の差として代替え的に表しています。
弓の強さを測るポンド計は、上下のリムの合計の力を測ることはできますが、個別のリムの力を測ることはできません。
弓を引いた時の上下のリムに発生する力を簡単に測ることができれば、その数値の方が弓の挙動を表すには適していますが、それが難しいので簡単に測れる距離の差を強さの差として用いています。
a-bの計算結果から分かることは、
a-bがプラスの時(positive tiller): 下リムより上リムの方がしなり(撓り)方が大きい
a-bが0の時(zero tiller): 下リムと上リムのしなり方が同じ
a-bがプラスの時(negative tiller): 下リムより上リムのしなり方が小さい
上リムと下リムは弦でつながれ、弓を引いていない状態では、リムにかかる力は同じで、しなり方が小さい方が強いリムを、しなりが大きい方が弱いリムを意味しています。
よって、
a-bがプラスの時(positive tiller):下リムが強く、上リムが弱い
a-bが0の時(zero tiller): 上下のリムは同じ強さ
a-bがプラスの時(negative tiller):下リムが弱く、上リムが強い
これだけ見ると、a-b=0のzero tiller(上下のリムは同じ強さ)がよさそうですが、話は簡単ではありません。
弓を引くときノッキングポイントの上下に指を置いて引きますが、このノッキングポイトが、弦の中心より少し上にあるため、アンカーに入った時、リムのしなり方が違ってきます。
左の図(右ききのアーチャーですが、説明の都合で図は左右が反転した物を使っています)で、
弦の中心を引いた時を青い線で、
ノッキングポイトを引いた時を赤い線で
表しています。
青い弦の位置と赤い弦の位置はわずかにずれていいます。
ずれは角度にして1°ぐらで図を見ても違いはわかりません。
左図は、上の図の弦だてけを取り出したものです(ノッキンクポイントは、見やすくするため極端に上にしてあります)
私の弓(70”)と引き尺(29 1/2”)で上リム先端(C)と下リムの先端(A)が垂直な壁(緑の点線)に固定されたいる場合の弦の角度と力のバランスを計算してみます。
まず、弦の中心を引いた場合(青い点線)
Bを15.3kg(34ポンド)で引くと
A-B-LineDの角度とC-B-LineDの角度は同じ 22.1°
AB方向にリムを引く力とCB方向にリムを引く力は、ともに20.36kg
また、Bのライン(矢の方向へ)の力は、上下とも7.65kgで
2つのリム先端にかかる力の方向と強さ、及び矢に作用する力は完全に一致します。
ノッキングポイントを引いた場合(赤い線)
B’を15.3kg(34ポンド)で引くと
A-B’-LineDの角度 20.9°
C-B’-LineDの角度 23.4°
AB’方向にリムを引く力 20.12kg
CB’方向にリムを引く力 20.48kg
また、B’のライン(矢の方向へ)の力は、上が8.06kg、下が7.24kgとなり上が強くなり、上リムの方が強く引かれます。
上の計算条件は、リムを壁(力によって位置が変わらない)として計算していますが、
ティラーハイトの設定を zero tillerで考えると、下リムより上リムが少し(8.06-7.27=0.79kg分)大きくしなり、Cの位置がAの位置より体側の近づき、弓が前後に少し傾いた状態でつり合うことになります。
また、上下のリムの矢に作用する力を同じにする(弓が傾かない)条件で、リムにかかる力を計算すると、
ノッキングポイントを引いた場合(赤い線)
B’を15.3kg(34ポンド)で引くと
A-B’-LineDの角度 20.9°
C-B’-LineDの角度 23.4°
AB’方向にリムを引く力 21.46kg(下リム)
CB’方向にリムを引く力 19.27kg(上リム)
また、B’のライン(矢の方向へ)の力は、上下とも7.65kgで弓を前後方向に傾ける力は発生しません。
この計算結果からは、上リムを下リムより弱い力で大きくしなるように設定すれば、前後の傾きを防ぐことができます。
これが、「a-bがプラスの時(positive tiller):下リムが強く、上リムが弱い」に設定する理由の一つとなります。
実際のつり合いは、スタビライザーの重りの効果、弦を引く3本の指の負荷配分・位置、押手のグリップを押す位置等が影響し、簡単に計算通りとはなりません。
positive tillerは、アンカーに入った時の弓のバランス(つり合い)に着目し、下リムのハンドルへの取り付け角度を上リムより垂直に近い状態に設定します。
アンカーに入った時は静的バランスが取れても、矢が発射されるときのバランスが良いとはいえないので、zero tillerを最近は採用するようになったようです。
ティラーハイトのチューニングには、
- a-bを0 (zero tiller)で、ティラーハイトの実射による調整はしない方法
- アンカー位置からさらに引いた時にサイトが上下に動かないようにa-bを調整する方法(Static tiller adjustment)
- 矢が発射された瞬間に弓が前後に傾かないように調整する方法(Dynamic tiller adjustment)
- 矢の発射が自分のフィーリングに合うようにa-bを調整する方法(Adjusting for ‘feel’)
などがあります。
私は、a-bがプラス(positive tiller)=3mm とメーカー推奨の0-6mmの中央値を採用しています、強いて言えば、Adjusting for ‘feel’です。
次に「Nocking Pointがレストより上にあり矢が下を向くこと」の理由を考えてみます。
a-bがプラス(positive tiller)でも、普通の設定では上リムの方が、下リムより強い力で矢を押し出すため、発射の瞬間に矢先を跳ね上げます。(下の弦の方が長く、下の弦が早い速度が戻るため、跳ね上げ)
この効果でレストから矢は浮き上がり、矢がレストをこすっていくことがなくなります。
ノッキングポイントをレストより少し高くし、この跳ね上げによって矢が水平に出ていくように調整しています。
ノッキングポイントの適正高さはテイラーハイトと次にような関係があります。
- a-bを大きくすると(下リムの強さを増すと) 適正ノッキングポイントの高さは
低高くなる (下の弦の戻る速度が速くなる) - a-bを小さくすると(上リムの強さを増すと) 適正ノッキングポイントの高さは
高低くなる(下の弦の戻る速度が遅くなる)
これは、矢先の跳ね上げ力は上下リムの力関係(弦の戻る速さの差)によるためです。
なお、ティラーハイトを先に合わせてから、ノッキングポイントのチューニングをします。
ノッキングポイントのチューニングの代わりにティラーハイトを変更してはいけません。
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